ゲーム脳の恐怖。

当社顧問の菊池一久【医事評論家】による健康コラムです。

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2006/04/07

心と生命(6)

〜脳を見る(2)〜

この連載第二回で、精神の座は大脳皮質を含む大脳新皮質にあることを述べた。

さて今日、IT時代(Information Tech-nology)である。
2002年「ゲーム脳の恐怖」(日本放送出版協会刊、著者、森昭雄氏、日本大学文理学部教授)の記述によると、ゲームだけではなく、テレビ、ビデオ、メールなどは、脳に多大な影響を及ぼすという。もちろん、悪い影響のことだ。
それは、前頭連合野の働きを低下させるという。ショッキングな問題提起である。
特に子どもや若者が熱中するテレビゲームや携帯電話を長時間つづけることで、私たちの前頭連合野の働きが悪化し、人間らしさを失うことが分ってきたという。
この最も大事な働きをする前頭連合野の働きが悪化し、機能低下がおこると、抑制の効かないキレやすい状態になり、自己中心的な行動をとってしまうという。
しかも、それがテレビゲームばかりでなく、パソコンやテレビなどからも影響されるというから、まさに恐怖である。
とにかく、前頭連合野の働きが悪くなっている脳を著者は「ゲーム脳」と命名したのである。
そして脳波検査によると、前頭連合野の活動を表すβ波が減少したり、全くβ波が出なくなってしまうという。詳細について省略するが、その重要なポイントをここに列記してみた。

  1. ゲームをほとんどしたことがなかったり、テレビも一日1〜2時間程度見る人は、脳波検査でもα波とβ波が正常だが、テレビゲームをすると、前頭連合野に信号が伝わらなくなり、β波が減少し、α波とβ波が重なって、ちょうど痴呆患者と同じような脳波現象をみる。
  2. 脳は、通常、物を見た情報が後頭葉にある視覚野に入り、色、形、空間、位置関係を検出し、確認がとれたら前頭連合野に情報が送られて、物事の手順や意思決定がなされて、最後に側頭葉の運動野に伝わり、手足などを動かすという流れになる。
  3. ところがテレビゲームに慣れたゲーム脳の場合、目から入った情報が空間・位置関係を視覚野(後頭葉)で認知しただけで、一気に側頭葉の運動野に情報を伝えて手が動くようになってしまう。そのため指の運動は速くなるが、前頭連合野に信号がいかず、発育不全になってしまう。
  4. α波とβ波が重なった状態のゲーム脳の子どもたちは、記憶するワーキングメモリーの働きも悪く、脳の神経回路が働かない。メモを取れば視覚的には勉強ができるが、脳で記憶することは困難で、また集中力も低下して、結果的に学力低下が確実に起こってしまう。
  5. ゲームがやめられない状態になることは脳の神経伝達物質であるドーパミンが古い脳である大脳辺縁系に出て、薬物依存と同じように一種の快楽を引き起こしてしまう。

また、バランスを保つために働く神経伝達物質セロトニンは欠乏状態になってしまう。
ということになる。
このゲーム脳に対して「子供の脳は肌にある」の著者で、小児科医の山口創氏は(光文社新書)、テレビやゲームなどのバーチャルな世界の体験と、スキンシップとは対極にある行為であるということだけは、著者も同意見であると述べ、次のように直接ゲーム脳に触れてはいないが、貴重な意見を述べている。
それは、こうである。
人間は自分の置かれている現実を安定して見ることができるようになって、はじめて、テレビという虚構の世界を虚構として受け取ることになる。(中略)
しかし、子どもには、それがない。子どもは大人のように虚構を受け取れるわけではない。
現実と虚構の区別が、まだよくできない。
虚構の世界は、幼い子どもにとって大きなリスクを伴うものと考えなければならない。
臨場感あふれる画面で、強烈なインパクトのある映像を、毎日何時間も見続けたとしたら、どうなるだろうか。視覚や聴覚など一部の感覚だけが過剰にさらされ続けることや、じっとしているとき、心臓が激しく拍動することは、本来の心身のバランスを崩し、人の未来を歪めている---。とある。貴重な専門医としての主張である。

また、2004年2月7日、上原記念生命科学財団と朝日新聞社の主催で、「未来---脳科学最前線」という主題で公開シンポジウムが東京・千代田区の東京商工会議所ホールで開かれた。パネリストは、中西重忠氏(京都大学生命科学研究所教授)、御子柴克彦氏(東京大学医科学研究所教授)、宮下保司氏(東京大学大学院医学系研究所教授)、水野美邦氏(順天堂大学教授)。養老孟司氏(東京大学名誉教授)、コーディネーター高橋真理子氏(朝日新聞論説医員)で行われた。
シンポジウム全体の内容は省略するが、「ゲーム脳」について、高橋真理子氏の質問に養老孟司氏は次のように述べた。
「テレビゲームは脳に悪い影響を与えるか、脳波でわかったというが、もっと広く言うと、実はテレビが、ここまで普及するまでに、子どもにどう影響するか考えなければならなかった。私はNHKに提言して、2年ほど前から放送文化研究所で『子どもによいメディア』という研究を始めました。
その年生まれのお子さんから、ずっとテレビをどう見るか、どんなものをどれだけ見たかというデータをためていくわけです。
中学生や高校生になった段階で、どういう子に育ったかということを、それまでのデータを突き合せる作業をしないと、人間の発育に関する影響はわかりません。
昔と今は社会環境が全く違う。一つの事象だけを取りあげて、ゲーム脳がどうのこうのと言ってもあまり意味がない」と発言している。

また、神経内科専門医の林泰氏(有楽橋クリニック院長)の「ゲーム脳」についての警告は非常に重い意味をもつ。
しかし、脳波の異常があったことから、重大な脳障害を及ぼしているという医学的証明には難しい点があるという。脳波以外の例えばPETなどの活用も必要である。
テレビゲームに集中して興奮することで、β波が長くつづき、寝つけないということはあるだろう。しかし、痴呆患者と同じような脳波現象をみるということには疑問があるという。
ITは、まだ脳が完全でない子どもにとっては、前に述べたようにリスクは大きい。成人が長時間パソコン作業をすることはどうなのか、好ましいこととはいえないが、まだまだ医学的検証は必要であろう。
林氏は、もし痴呆状態の脳波であれば、α波やβ波は見られず、そこにはδ(デルタ波)やθ(シータ波)が生じるという。
脳波検査だが、脳はその活動にともなって非常に弱い電気を流す。検査は頭部にいくつかの誘導のための線をつけて、脳細胞の電気興奮をとらえて診断するもので、なんの苦痛もない。
この検査の目的は、脳の機能的変化を捉えるもので、脳血管障害やてんかん、脳腫瘍、痴呆、昏睡、脳死などの判定に用いられる。
一般に健康な人の脳波は、α波が主で、これにβ波がまじるという。しかし脳に異常があるとα波、β波以外にθ波やδ波などが生じる。脳波検査は、これら周波数、波形、振幅の異常、左右差(右半球、左半球)、各波形の分布などを分析して診断するものである。

今日、ITは私たちの日常生活のなかにある。パソコン、テレビ、ゲーム、携帯電話、力ーナビなどIC(集積回路)を積んだ最近の情報機器はすべてITということになる。
私たちの脳は、ある意味からいえば、自然が創造してくれたコンピュータシステムであるといえるが、この脳は、はじめは不完全で、親の深い愛情、多くの教育や人間関係のなかで一歩一歩、創りだされる。脳が一人前になるには、誕生しておよそ20年間という長い年月を要するという。このことをしっかりと私たちは認識して、ITとの付きあいをせねばならないといえる。
子どもの発育途中で脳に異常をきたす誘因にITがどう影響するか、医学調査の推進ともに、予防対策を各人が行う必要があろう。特に子どもの脳は刺激に弱く、虚構の世界から逃げられない事態になりかねないからだ。

脳をみる---視床、脳下垂体

私たち人間の大脳は脳全体の80%を占めており、動物時代からあった脳、大脳辺縁系を周辺部に追いやっている。
このヒトの巨大な大脳といっても、もともとは原始的な魚類の脊髄から発達してきたもので、脊髄がすべての脳のルーツだといえると専門家はいう。
前に述べたように、大脳新皮質の発達が、ヒトの性格、創造性など、他の動物にはない大きな違いを生じている。
大脳皮質は前に述べたように左右二つ(左脳、右脳)に分かれており、その間を脳梁というおよそ二億本といわれている連絡用神経で密につながっている。この二つに分かれた脳は別々に活動せず、互いに刺激しあって活動をする。しかし、この脳梁を病などで切断してしまうと、二重人格になるともいわれている。

視床

専門書をみると、眼からの視神経が通る床という意味だという。人間の感覚、情報の大部分は、この視床を通る神経によって伝えられる。このような役目から、大脳、小脳、脳幹の交差点に似たものだと専門家はいっている。すなわち、情報の中枢センターなのだ。
ご存知のように私たちのこの生命体は、一個の受精卵が細胞分裂をして増殖し、60兆個もの細胞から、生命体がある。この細胞分裂の結果、私たちのからだは左右対称の形となっている。
脳についても同じで、大脳、小脳、そして脳幹、脊髄などすべての脳は二個、あるいは二本で構成されている。しかし、二個の脳があるより一個に合体したほうが効果的なので、進化が進む過程で、脊髄などは左右二本の脳が融合・合体し一本の大きな脳となっている。
専門家は、このことについて、こう述べている。「これは動物の脳の急激な進化に脳の融合・合体が追いついていないことを示している」という。すなわち、「進化は脳幹でもその最上位にある視床までは及ばなかった」という。
この脳が融合できず、左右に分かれていることは人間の精神(心)にとって深い意味があると思う。
たとえば大脳が左右に分かれ、左脳は理性、右脳は感情というように、私たちの心の難しさが、そこにはあるが、その難しさを私たちは、多くの環境のなかで育ってきた個性が、よりよいものに生まれ変る心の創造をする。
さて、視床の下部には、視床下部という大事な脳がある。
この視床下部も上部の視床に準じて左右に分かれているが、下部は左右が融合して、中脳の上に位置している。 このことについて、専門家は、視床下部が視床より古い起源を持つ脳であることを物語っているという。

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