神経伝達物質

心の動きをコントロールする神経伝達物質に関しての解説コラムです。

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2006/04/07

心と生命(4)

〜心と神経伝達物質〜

心と神経伝達物質

前号で述べたように、ニューロン(神経細胞)のネットワークによって、私たちの脳は想像以上の情報を得、記憶をするなど大きな働きをして、日常生活を一層豊かにしている。
大自然は、その情報が電気シグナルとして素早く脳のなかを走り、活動し、そこに心が生じてくるように働いている。
とくにニューロンとニューロンの間には、前号の図で示したように、シナプスと呼ばれる連絡部分があるが、驚くべきは、このシナプスの間隔は、なんと20〜30ナノメートルしかない。(ナノは10億分の1)
このほんのわずかなすき間でしかないシナプス間を、電気シグナルでも飛びこえることはできず、化学シグナルとして、情報を伝えるわけだ。
なぜ、電気シグナルのまま伝えられないのか。もし、シナプスというほんの小さなすき間がなかったら、情報は脳全体に均質になってしまい、脳は、その各部分の高度な機能を発揮できず、豊かで幅広い心は生まれなかっただろう。自然の神秘がそこにはあるように強く感じる。
さて、この化学シグナル(化学物質)だがこれを神経伝達物質(伝達物質ともいう)というが、その種類、数はおよそ100数種類あるといわれている。はっきりと確認されているものは、およそ25種類である。
表-1は、その代表的な神経伝達物質を示した。

なお、神経伝達物質やシナプス、そして心の関係については、「脳と心をあやつる物質」(生田哲著講談社ブルーバックス)で、大いに勉強させていただいた。
神経伝達物質は、シナプスを渡って節後線維の受容体に結合し、情報を伝え終えると、受容体から離れるという。そして役割をはたした神経伝達物質は、酵素によって分解されるか、神経細胞によって回収され、刺激が長く続かないようになっている。
ここでいいたいことは、シナプスでの神経伝達物質の興奮の度合によって、心の働きが決まるということだ。
すなわち、神経伝達物質とその量によって、その時の心の状態が決まる。心の状態は脳のネットワークのシナプスから放出される神経伝達物質の性質と量によって決まるという。

おもな神経伝達物質

アセチルコリン

神経伝達物質として最初に分離され、構造や機能が解明。生理活性アミンで、コリン系。アセチルコリンは酢酸、コリンはビタミンBの一つ。すなわち、ビタミンBと酢酸が結合した化合物。酵素アセチルコリンエステラーゼで、アセチルとコリンに分解される。 大脳皮質のアセチルコリン神経は、大脳基底核の一部からでている大型の神経で、この神経の脱落が50歳代で発症をみるアルツハイマー型の痴呆を生じることが分っている。通常は、記憶、目覚め、学習、睡眠に深くかかわっている。放出が多すぎるとパーキンソン症候群と関係、逆に少なすぎるとアルツハイマー病との関係が…。

ノルアドレナリン

生理活性アミンでカテコールアミン類。脳とともに自律神経の交感神経から、昼間、広く分泌。目覚め、集中力、積極性、痛みの喪失などがある。放出が多すぎると、不安、そう状態と関係。

ドーパミン

生理活性アミンで、カテコールアミン類。他の動物よりヒトは特別に多く分泌。脳の覚醒、快感を誘い、気分と意欲が高揚、創造性を発揮、攻撃性など重要な神経伝達物質。 放出が多すぎると、精神分裂病(総合失調症)と関係。少なすぎるとパーキンソン病との関係。ドーパミンは、脳全体にあるのではなく、黒質という部分にある。

セロトニン

生理活性アミンで、インドールアミン類。脳内に広く分布。 覚醒、睡眠などの生体リズムや情動(感情)に深く関係。ドーパミンやノルアドレナリンは、いずれも覚醒性のもの。 これに対して、セロトニンは、これら過剰な活動をコントロール。すなわち行動に抑制的に働くが、セロトニンが不足すると食欲や性欲は亢進する一方で、気分は低下。うつ状態との関係が。快感、覚醒の調整、活動を適度に抑えるはたらきをする。快と不快のバランスがとれてこそ、人間の脳と精神は正常に活動できる。

ギャバ

γ-アミノ酪酸の略で、グルタミン酸から生産。もっとも多量にある抑制性の神経伝達物質である。情報伝達全般に関係。脳のなだめ役。 グルタミン酸とともに大脳、小脳の有髄神経や神経伝達物質として分泌される。 しかし、その作用は、グルタミン酸と正反対だが、シナプスにおいて逆に働き、標的細胞(キヤバが受容する細胞、受容体)の活動を抑制する。

※詳しい働きについては、この連載をすすめるなかで順次のべていきたい。

脳の中には、何種類もの神経細胞があり、セロトニンを出す神経細胞とドーパミンを出す神経細胞は別である。一つの神経細胞が一つの神経伝達物質をだす。これは、本文でものべているように、神経細胞でつくられ、長い軸索を伝わってきて、ニューロン(神経細胞)の接合部シナプスを介して情報が伝達される。
神経伝達物質には、表以外にも、ヒスタミン、アスパラギン酸、グリシン、タウリン、メチオニン、β-エシドルフイン(脳内麻薬)など数多く知られている。

※アルツハイマー治療薬、アリセプト、アリセプトD(新)--(エ一ザイ)(アセチルコリンエステラゼ阻害作用)がある。
「脳と心をあやつる物質」の著者である生田哲氏は、その著書のなかで、こう述べている。

「通常、脳神経細胞の興奮の程度は、神経伝達物質によってバランスを保つようにコントロールされている。しかし、環境の変化や対人間関係の摩擦などで、ときにはある物質の過不足がおこり、バランスが崩れると心の病がおこることもある」
と記述している。詳しく勉強したい方は、生田哲氏の「脳と心をあやつる物質」の読書をおすすめする。

グリア細胞の研究

前号で、ニューロン(神経細胞)に、栄養を与えているのが、グリア細胞であると述べたが、研究がすすむにつれて、グリア細胞がニューロンのネットワークとは違ったネットワークを持ち、そのなかでグリア細胞同士で互いに連絡を取りあい、脳の機能に影響を与えているという。そこではシナプス結合の制御をも行っているという。
また、グリア細胞の研究から、ATP(アデノシン三リン酸)が、頻繁に現れるという。
ご存知のようにATPは細胞活動のエネルギー源だ。
車がガソリンで動くように、生体のエネルギー物質は、このATPで、これは細菌から動植物まで、共通したエネルギー源である。
なぜ、ATPが生物共通の普遍的なエネルギー源なのかは、不思議である。
このATPは細胞内に多量に存在するが、ATPは、神経伝達物質が貯蔵されているニューロンの軸索先端に整然と詰めこまれているという。
最近の研究では、グリア細胞の一種、シュワン細胞も前に述べたニューロンの軸索内の電気シグナルがもれないように、髄鞘というさやの中に存在する。髄鞘の破壊から生じる脱髄性疾患である多発性硬化症をはじめ、神経疾患の治療に利用できるかもしれないと研究者は一つの希望的発言をしている。

頭がよくなる食事は

ここで話題が少し外れるが、脳にとってプラスになる食事についての質問が、読者から寄せられた。大事なポイントである。
からだの働きも、頭の働きも、日頃の食事、栄養がよくなくては十分に機能しない。
すなわち、糖質、タンパク質、脂肪そして、これら栄養物を十分に発揮するための酵素を助けるビタミンやミネラル摂取が、健康に生きるための食事の基本であることはいうまでもない。
さて、今日大きな問題となっている生活習慣病対策だが、脳と心臓疾患を予防するために、脂肪酸が大きな鍵となっている。
脂肪酸の融点はヒトの健康に関係なさそうだが、実は密接なかかわりがあるのだ。
たとえば、牛や豚の体温は39度Cであり、動物の脂肪酸は、牛や豚では、体温の関係から液体となっている。すなわち飽和脂肪酸が脂肪の大部分を占めている。
ところが私たちヒトの体温は37度Cであり、牛や豚の脂肪を大量にとれば、この飽和脂肪酸は液体から固体化され、血液はドロドロとなり、血管の中に蓄積する。そして心臓病や脳卒中の原因となるのだ。
ところが、魚類をみると、10度〜20度Cの温度で、水中を泳いでおり、脂肪酸は固まらない。
この体温で固まらない融点の低いEPA(エイコサペンタン酸)やDHA(ドコサヘキサン酸)といった不飽和脂肪酸が、魚のからだには蓄積されている。私たちが、このEPAやDHAをとると、血管に付着している飽和脂肪酸を溶かし洗い流す効果があり、血管を掃除することになる。
一日に魚30g(一週間に二度、魚料理を食べることに相当)。この30g以上を食べた人は、心臓病による死亡率が、魚を食べない人にくらべて50%以上も少なかったという調査がある。ここでいう心臓病とは、心臓の働きを阻害する冠動脈硬化による虚血性心疾患で、狭心症や心筋梗塞のことである。
若いときから食生活を管理することで、これら厄介な生活習慣病を予防することができる。
そして、このEPAやDHAには、頭をよくする効果も期待できるという。
その根拠だが、DHAがニューロン(神経細胞)の成長を促すNGF(神経成長因子)というホルモンの産生にかかわっているからだという。
また、アルツハイマー病で、不幸にも亡くなった患者さんの脳の海馬---これは情報の出し入れと記憶のよしあしを決める---のDHA量が普通の人よりはるかに少なかったという結果報告がある。
しかも、DHAは脳に必要な物質だけを選んで受け入れる「血液---脳関門」をたやすく通って脳に入るのだ。

この「血液---脳関門」だが、脳は大事な器官であり、脳にとって必要な物質だけを選んで採り入れる。この関門を通れる物質だけが脳に入り神経細胞をつくり---神経伝達物質となって脳の活動を起こしている。すなわち心を創ったり、心を変えたりする。
脂溶性の高い物質は、「血液---脳関門」を通過できる。水溶性のイオンなど荷電(プラス、マイナスの電荷のこと)のある物質は膜にはじかれて入れない。
ただし、アミノ酸、ブドウ糖など栄養素、ナトリウム、クロリド、カリウムなど神経細胞に関係あるイオン、インスリンなどは通過できるという。

さて、EPAもDHAと同じような効果があるが、DHAほど容易には「血液---脳関門」を通れない。
DHAやEPAを多く含む魚は、サバ、イワシ、サンマ、キングサーモン、マグロなどがある。また、a-リノレン酸といって体内で代謝されてDHAになる物質がある。このa-リノレン酸は、アマニ油、ナタネ油、ハクサイ、コマツナ、ホウレン草、ダイコンなどに含まれている。頭の回転を良くするには、野菜と青い魚を食べるといいことになる。
さて、記憶と学習で大切なのは、情報の出し入れをする海馬である。この海馬は、前に述べた神経伝達物質、アセチルコリンというものを産生し、放出するアセチルコリン神経が集中している。
そこで、アセチルコリンを取ればいいのかということになるが、アセチルコリンは分子の内部に電荷イオン性の物質があるため、「血液---脳関門」を通過できない。
すなわち、アセチルコリンは脳に入れないのだ。そこで、体内で代謝されてアセチルコリンに変換される脂質の一種、レシチンをとるとよいことになる。このレシチンは、麦芽、大豆、ピーナツ、子ウシの肝臓、ヒツジの肉、オートミールに多く含まれている。
以上、生化学の専門書を参考に記述した。
毎日の食事がいかに大切かがいえる。

記憶についての研究

記憶に関する研究もかなり進んできている。
記憶はどうしてつくられるのか。神経回路内のニューロン(神経細胞)同士が互いに結合したとき、すなわちシナプスを増強したときに記憶が生まれるという。短期記憶の場合、この作用は数分から数時間だが、長期記憶ではシナプスの増進が恒久化するという。
また、分子生物学からみると、短期記憶から長期記憶への転換には遺伝子が関与しているという。学習が成立するには、数分以内に脳で新しいタンパク質ができる必要があるという。
出来事が非常に重要な事柄が何度も生じると、ニューロンの電気シグナルが繰り返し強く発し、記憶すべしという伝言がさらに出るという。 とにかく、脳の研究は目ざましいことが多く、生涯を通じて脳でも新しい神経細胞(ニューロン)が生まれているという研究発表もある。脳が再生するというのだ。とにかく、脳科学の研究には目がはなせない。

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