低肺機能患者

医療制度の中で、酸素を吸えずに、苦しむ低肺機能患者についてのコラムです。

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2004/03/22

意外としらない、今時の病気。

〜低肺機能患者について考える〜

酸素を吸いたいが吸えない人たち

ご存知のように、大気中には、およそ 78%の窒素、21%の酸素、0.033%の二酸化炭素、その他がある。

この大気中の酸素を呼吸することによって私たちは生きている。ところが、肺の病気、たとえば、慢性気管支炎から肺気腫になったり、がんや結核などで肺を切除したり、その病巣を押しつぶして病気の進行を抑える胸郭成形手術を受けたことによって、十分に酸素を吸い込むことができなくなる…、このような人が加齢者の間で増えている。

助骨を切除して肺病巣をつぶす胸郭成形手術は、昭和20年代から30年代に、肺結核の外科治療として広く実施されたものだ。

とにかく肺の機能低下から、呼吸不全となる。そのために人工的に酸素を吸う在宅酸素療法が実施されている。これには、外出も可能な携帯酸素療法も行われ、外出だけでなく仕事をしている人も少くない。ところが、今日、健康保険の自己負担増で、この在宅酸素療法を経済的な理由でやめる人がいる。

冠たる健康保険制度

在宅酸素療法だが、この療法を受けることで病状が回復するというものではない。人工的に酸素吸入をすることで、一般の健常者に近づき、人生の質を高めることができる。

だからこそ、日本は昭和60年に在宅酸素療法が健康保険で活用できることになったのである。

我が国のこの公的健康保険制度は国民皆保険であり、世界に冠たるシステムである。…いつどこでも保険証さえあれば、全国共通の診療内容と料金(保険でまかなう)で質の高い医療をうけることができるからである。そして、患者は医師を自由に選べる。

病気が慢性的で治らないものも多いが、日常生活を十分にやっていけるだけの医療の質があることは、生命の質を高めることになり、最大の医療の貢献である。

ところが、自己負担の増加ということから、その医療を受けられず、がまんすることは、医療そのものの後退である。医師にとっても患者にとっても、暗くて不幸なことである。

全低肺(全国低肺機能者団体協議会)の会報(東京都町田市小山町737−7)の2003年6月13日号によると、医療費の自己負担に耐えかねて在宅酸素療法を辞退する人が続出しているとある。

昨年十月より、老人医療費の自己負担が1割以上も増えたためだ。低肺機能者の多くは、若い時に肺の手術を受けて、低肺になったり、40代から一般の健常者よりも肺機能が劣って、十分に働けない人が多いこともあり、中小企業で臨時雇用の人も多く、賃金収入も少く、経済的ゆとりがない…、こんな状況で老人医療に入っている人が多い。肺気腫や肺野が人の半分となると、息ぎれも強く、酸欠状態が続き、心臓にも悪影響を与えている。…在宅酸素療法、携帯酸素による社会参加は、命の綱なのである。

これら低肺機能者の患者会がある。全国呼吸器能障害者団体(もみじ会)である。

この二月、「神奈川もみじ会」では医療費の負担により1ヶ月1万円前後の負担は、低肺機能患者にとっては死活問題であり、200人近い人が、酸素療法のキャンセルをしたと報じている。

このほか、「岡山県もみじ会」では、月に2回の受診で1700円だった自己負担が、16000円に増えた。酸素を吸っていれば10年生きられる命を二年に縮めている。この岡山地区では、月ごとの調査では、150人の方が酸素療法を辞退したと報じている。

この4月からサラリーマンの負担率が3割となった。辞退者は増えるのではないかと心配している。

低肺機能患者は身体障害者

これらの患者は、法によって、身体障害者福祉法の内部疾患に指定されている。

低肺機能は、重い1級と、よく分からないが2級はなく、3級と4級に区分されている。

一級:呼吸器の機能の障害により自己の身辺の日常生活活動が極度に制限されるもの

三級:呼吸器の機能の障害により、家庭内での日常生活活動が著しく制限されたもの。

四級:呼吸器の機能の障害により社会での日常生活活動が著しく制限されるもの。

ここで一級の重症者には自己負担もなく、障害者手当も支給されているが、三級、四級では自己負担があり、もちろん障害者手当などはない。

低肺機能の医学的診断は、酸素分圧で、室内呼吸(気圧)80〜100Torr(トール)、炭酸ガス分圧は35〜45Torrが正常値で、動脈血酸素飽和度(動脈血を採血しなくても、指の先にセンサーをつけて計測するパルスオキシメーターを使用する)が通常90%以上あれば正常となっている。

酸素分圧が60Torr以下の時は呼吸不全があり酸素療法が必要となる。パルスオキシメータでは85%以下なら必要となる。

もみじ会報の投稿をみると、こんな人のことが報じられている。

「身体障害者一級で、在宅酸素療法をやっていましたが、昨年 10月に料金が高いためもあって酸素療法をやめました。

しかし、今では酸素無しでの生活にも慣れ、一人暮しですが、週2回のヘルパーさんのサービスで、坂道はゆっくり呼吸調整をしながら歩くなどしています」と、73歳の男性の言葉が載せられていた。

医学的な問題

必要なのに酸素療法をやめることは医療上後退である。必要なのにやめたある人は、奥さんに精神力で克服しなさいといわれたという。

しかし、息がつらい、ゆっくり歩くことはいいとしても、不整脈などが発症したり、心臓への悪影響もあろう。精神面からも、マイナスになろう。とにかく生活の質の低下(免疫、代謝の低下など)をもたらす。このことは自己負担増による医学の後退である。

また、身体障害者福祉法があっても、三級の低肺機能者には、自己負担をなくすべきであろう。

また自己管理で酸素療法をしていない四級などの人にも、三級でもしていない人にも、パルスオキシメーターを申請により貸し出すべきである。睡眠中に酸素飽和度が低下したり、息ぎれや頭痛の時など、酸素分圧状態が分るからである。

患者一人ひとりの実体に合わせて、きめこまかい対策が、低肺機能者には大事だ。

医療本質はどこにいくのか

息がきれる。低肺の人は、慢性的な経過をたどるので、この息ぎれは、当り前とあきらめる人も少くない。息ぎれがあると自然とからだを動かさなくなり、食欲も低下し、やせてくるし、気分も沈みがちになる。

第一、社会的視点が欠けはじめ広い視野や人との交流が欠けて社会性がなくなる。

こうなると、このからだを守っている免疫機能も低下し、前向きに生きる人生はなくなり、その結果、低肺だけでなく、他の病気を併発し、医療費をかえって使うことになる。そこには本来の医療の姿がない。

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